※本文は「ドラッカー学会年報Vol.3 文明とマネジメント 生誕100年記念特別号」に寄稿したものの全文です。
研究ノート「ドラッカーの世界に見るTOC(制約条件の理論)」
“Looking for the concept of TOC in the Drucker World”
Management Consultant, Toshiharu Katsura
When I read Drucker’s books, I often find some idea what are used in TOC(Theory of Constraints). I introduce the principle of TOC looking for the relation to Drucker’s perceptions.
1, はじめに ~『現代の経営』とTOC~
我々はマネジメントによって,自らの使命とする成果を上げなければならない.成果を上げるためのマネジメントの方法論については,さまざまな手法や考え方が提案されているが,それら新しい方法論の基本的アイデアの多くはドラッカー教授の著作の中にすでに登場している.
私が専門としているマネジメントの方法論;制約条件の理論*1(Theory of Constraints,以下TOCと略す)も例外ではない.
ドラッカー教授が1954年に書いた『現代の経営』の中に,TOCのコンセプトを連想させる記述がある.
「マネジメントの仕事は常に,物的生産に関わる制約を押し戻すことにある.それどころかマネジメントは,それらの物理的な制約を機会に転換すべく事業をマネジメントしなければならない.」*2
「物理的な制約を押し戻し,逆にそれを機会とするには,マネジメントは,まず第一にいかなる生産システムが必要であり,その生産システムの原理が何であるのかを理解しておく必要がある.そして第二に,その原理を一貫して適用する必要がある.生産活動とは原材料を機械にかけることではない.それは論理を仕事に適用することである.正しい論理を明快かつ一貫して適用するほど物理的な制約は除去され,機会は増す.」*3
TOCの開発者エリヤフ・M・ゴールドラット博士がヒントにしたかどうかは定かでないが,TOCの中心的コンセプトに通じるアイデアをドラッカー教授の著作の中でたびたび発見することができる.
本稿ではTOCの基本とする原理と導入プロセスを説明しながら,ドラッカー教授の著作との関連を見ていくことにする.
2, 大量生産原理の一つとしてのTOC
ドラッカー教授は「大量生産とは単なる技能の集積ではなく広く適用することのできる一般原理である」*4としている.
もともとTOCは大量生産の原理の一つとして生まれた.その起源はトヨタ生産方式*5であり,また更にその起源としてフォード生産方式*6がある.
フォードのフローライン(流れ作業)による大量生産方式の背後にある本質的な概念を利用して,単一製品の生産量が少ない場合にも適用できるように発展させたものが大野耐一氏のトヨタ生産方式であった.
そして,トヨタ特有の環境に向けて改良されたトヨタ生産方式を,より一般的な環境でも適用できるように発展させたものがゴールドラット博士のTOCである.
トヨタ生産方式が踏襲しているフォードの大量生産の概念について,ゴールドラット博士は以下のようにまとめている.
「大野はフォードによる四つの概念を踏襲していることになる(以下,これらをサプライチェーンの概念と呼ぶことにする).
1)最大の目標はフローを向上させること(あるいはリードタイムを短くすること)
2)この目標は(過剰生産を防ぐため)いつ生産してはいけないのかを示す具体的な生産メカニズムに変換されなければいけない.その手段としてフォードはスペースを,大野は在庫を使った
3)局所的な効率は無視しなければいけない
4)フローをバランスさせるためには集中プロセスが不可欠.フォードは直接目で生産現場を観察する方法を用い,大野はコンテナの減り具合,さらにコンテナ当たりの部品の減り具合を用いた」*7
サプライチェーンの概念を現実の環境に適用するためには,適用環境に応じた具体的な手法が必要である.ゴールドラット博士は手法の利用に対して次のように警告している.
「忘れてはならないのは,手法は,適用する環境についてさまざまな前提(時には隠れた前提)を置いているということだ.そしてその前提が有効でない環境においては,その手法がうまく機能することは期待できない.」*8
TOCは単一製品の生産量が少なくとも,生産環境(製品寿命,需要,リソース負荷)が不安定でも機能する.
特に,需要の変動とリソース負荷の変動があっても機能するため非常に実用性が高い.その実用性の鍵は時間をベースにしたマネジメントである.ただし,時間に関する前提条件によって手法の使い分けが必要となる点に注意が必要である.具体的な手法の使い分けに関しては後述する.
上に掲載のサプライチェーンの概念にTOCに関する表現を追加すれば,以下のようになる.
1)最大の目標はフローを向上させること(あるいはリードタイムを短くすること)
2)この目標は(過剰生産を防ぐため)いつ生産してはいけないのかを示す具体的な生産メカニズムに変換されなければいけない.その手段としてフォードはスペースを,大野は在庫を,ゴールドラットは時間を使った
3)局所的な効率は無視しなければいけない
4)フローをバランスさせるためには集中プロセスが不可欠.フォードは直接目で生産現場を観察する方法を用い,大野はコンテナの減り具合,さらにコンテナ当たりの部品の減り具合を用い,ゴールドラットはタイムバッファ(納期前,原材料を投入する時間的間隔)を用いた
3, フローのマネジメント
サプライチェーンの概念に示されるように,TOCは時間をベースにフロー向上,すなわちより多くのスループット(アウトプット)を生み出すことを狙いとしている.
スループットを生み出すためには,市場の需要を無視するわけにはいかない.なぜならば,市場から求められていないものを生産しても,内部に在庫が積み上がるだけで,システムのスループットは向上しないからである.
したがって,システムのスループット向上のためには,市場の需要をコントロールポイントとしてフローを制御する必要がある.
TOCでは,このようなシステムの成果を決定づける要素を「制約(Constraints)」*9と呼び,制約にマネジメントの意識を集中する.これが制約条件の理論(Theory of Constraints)の名前の由縁である.
そして,営利企業にとって最も重要な制約(Primary Constraints)は市場であることをTOCは明確に定義している.スループットを向上するためには,市場を徹底活用できるように全ての活動を同調させる必要がある.
4, スループットの定義
システムの生み出す成果としてスループットをもう少し深く考えてみると,スループットは物理的な生産量を示す以上の意味合いを持つことに気づかされる.
スループットの示すものを明確に理解するためには,誰に,どんな製品・サービスを提供しているのかを理解しなければならない.そのためにはドラッカー教授の次の二つの問いが役立つ.
1)あなたの顧客は誰ですか?*10
2)あなたの顧客にとっての価値は何ですか?*11
そしてこれら二つの質問の答えは,次の問いの答えを導くことを助ける.
3)あなたの事業(使命)は何ですか?*12
よって,スループットの示すものを明確に理解しようとすることは,事業(使命)を理解することに通じる.
TOCの公式な知識体系の中では事業や使命に対しての言及はないが,事業(使命)を規定するものとしてスループットが理解されるならば,TOCを適用する意義も深まる.
5, システムズアプローチ*13による全体最適
企業をはじめそれぞれ特有の目的を持った組織は,さまざまな部分的機能が集まり補完し合うことで,総体(システム)として目的とする役割を果たす.
TOCではシステム全体の求める成果としてのスループット向上を追求するシステムズアプローチを基本としており,システムの成果を生み出すための活動の連続がフローである.
フローによって生み出されるスループットを向上させるために,システムを構成する各部分は局所的な効率を追求するのではなく,全体のスループット向上のためにそれぞれに求められる役割を果たさなければならない.
このとき,各部分を正しい方向に導くための方針や評価尺度,行動基準が必要である.
TOCではシステムの成果を決定づけるものは制約であり,営利企業において最も重要な制約は市場であるとしている.そのため,各部分を正しい方向に導くためには,制約である市場をどのように扱うのかという方針を決定する必要がある.
TOCが最も重視することは,市場における信用を確実にすることである.顧客と約束した品質の製品・サービスを,市場競争力のあるリードタイムで,納期内に届ける.これを継続的に達成することを通じて市場における信用を確実なものとしなければならない.
ここに上げた三つの必要条件(約束した品質の確保,リードタイムの短縮,納期の遵守)に貢献する行動はすべて企業全体のスループット向上に貢献すると言える.直接的に生産を担当する部門だけでなく,間接部門を含めてすべての部門が,全体のスループットのためにそれぞれの役割を果たすからこそ,システムは部分の和以上の総体としての成果を実現できる.
システムを構成する部分とシステム全体との間には,その目的とするスループットの発現に対して,明確な論理関係が存在する.すなわちシステムを構成する部分は,すべてスループットの発現に対してそれぞれの位置と役割を持っており,すべてが不可欠な存在である.
6. 具体的導入プロセス
6-1 何を変えるのか?
改善手法の多くは,ある環境条件に対する解決策を提供している.しかし,その解決策が有効であるのは,正しく問題を把握できている時だけである.ここに,TOCの導入の際に繰り返し行われる質問がある.
「もしそれが解決策であるならば,それによって解決しようとしている問題は何か?」
TOCに限らず改善活動は正しく現状を把握することから始めなければならない.
現存する組織は存続しているという事実が示すように,これまではある程度うまくマネジメントされてきたと見なすことができるが,外部の社会環境が急激に変化する中で,明日もまた今日のやり方のすべてが有効であり続けることはない.
ドラッカー教授は「人がつくったものが四半世紀以上有効なことはありえない」*14,「マネジメントというものは20年もすれば時代に合わなくなりうるもの」*15と述べている.
システムの目的とする成果に対して,何か望ましくない症状が発生していないかどうか,常に疑いの目をもって観察しなければならない.そのような症状が見つかったならば,現在のやり方の中にすでに有効ではなくなった部分があるのかもしれない.
以下のような典型的症状の発生がないだろうか?
「品質に対する顧客からのクレームが増加している」
「納期遵守率が○○%以下の状態が続いている」
「納期に間に合わせようとして長時間にわたる残業が発生している」
「やり直し作業がたくさん発生している」
・・・
こうした症状の背後には,その根本原因としてシステムの欠陥があると考えられる.ただし,欠陥はあるとしても現在もまだ有効に機能している部分もあり,現在のシステムを安定させていることを忘れてはいけない.
したがって改善にあたっては,その安定をもたらす部分を残しつつ,すでに有効でなくなってしまった部分だけを変化させなければならない.
そのため現状把握においては,現在のシステムにおいて何が有効で,何が有効でないのかを峻別することが重要である.
TOCではそれらの峻別は論理をもって行う.目に見えている症状(結果)には必ず原因がある.その原因と結果の論理的つながりを明らかにし,根本原因に対処する.
TOCによるマネジメントは「論理を仕事に適用する」ことである.
6-2 何に変えるのか?
現状の問題を正しく認識し,置き換える(廃棄する)べき部分を決めることができてはじめて,どのような解決策を必要としているのかが明らかになる.
このとき解決策の選択に当たっては,前提条件のチェックが欠かせない.
TOCはすでに書いた通りあらゆる環境に適用できるが,時間に関する前提条件によって手法を使い分けている.
具体的には,原材料を投入してから出荷準備が整うまでの時間(生産リードタイム)に対して,実際に加工処理を行っている時間(タッチタイム)がどれくらいの比率を占めるのかによって,次の二つの手法からいずれかを選択する.
1)タッチタイムの比率が10%以下である生産環境に対しては「DBR(ドラム・バッファ・ロープ)」*16
2)タッチタイムが比較的長いプロジェクト環境に対しては「CCPM(クリティカルチェーンプロジェクト・マネジメント)」*17
いずれの手法も時間をベースにフローのマネジメントを行うことで,変動性と不確実性への対処を可能とし,フローの安定と向上を生み出す.
これらの手法に関する詳細については参考文献を参照されたい.
6-3 どのように変えるのか?
生産システムの原理とその適用における論理がわかっただけでは変化は起こりえない.その変化を現実の結果とするためには,システムを構成する人々が行動しなければならない.生産システムを動かすのは人である.そして,その中でも特に,各部分の機能に対して責任を持つマネージャーの役割は大きい.
事業の成功に対するマネージャーの役割の重要さはドラッカー教授の著作の中にも繰り返し強調されている.
「マネジメントの能力と仕事ぶりが,事業の成功さらには事業の存続さえ左右する.」*18
ゴールドラット博士とともにTOCの開発に携わってきたオーデッド・コーエン氏はマネージャーの役割について次のように表現している.
「プロフェッショナルなマネージャーの役割は,彼らの責任下にあるシステムのパフォーマンスを改善し続けることである.」*19
TOCにおいては,マネージャーを制約とは定義していないが,制約を扱うマネジメントの方針,およびそれを実行するマネージャーの行動は,制約の徹底活用において非常に重要な役割をもっている.
変化を起こす際に,システムを動かしているのは人であるという認識は非常に重要である.なぜならば,人は未知の変化に対して必ず何らかの抵抗を示すからである.
したがって,変化を現実に起こすためには,抵抗する人を説得し合意を得なければならない.変化を起こす際に一番難しく,また一番頓挫しやすいのはこの点である.
TOCでは人々はもともと改善に対しては抵抗をしないと考えている.人々が変化に抵抗するのは,その人が変化によって手にするであろう良い結果を示されていないからだと考える.
人々が変化に抵抗する背景として最も重大なものは雇用に関する不安である.
TOCによる改善では初期段階で余剰キャパシティ(人員)が明らかになるため,経営者が経費削減への意識が強い場合,人員削減に及ぶ危険が高い.このような場合,システムを改善すればするほど,従業員は自らの雇用の不安を大きくすることになる.
また,部署や個人が稼働率などの部分効率指標で評価されている場合は,部分効率を無視することは彼らの評価を下げる結果になるため,TOCが示す解決策の方向性に同意しない可能性が高い.
このような反応は必ず起こりうる.改善の結果として発生するであろう余剰キャパシティをどのように活用するのか,部署や個人の貢献をどのように評価するのかをあらかじめ明確にし,関係者の納得を得ておかなければならない.
特に人員削減の問題は,人という最も高価な資源を浪費するばかりか,社会における個人の位置と役割を喪失させるため,非常に悪影響が大きい.
システムに変化を起こすことは,人を変えることでもあり非常に難しい仕事であるが,一方で改善に関わる人々の積極的な理解と合意を得ることさえできれば,技術的な問題は自ずと解決されていく.
6-4 いかに継続的改善を行うか?
TOCは時間をベースにフローをコントロールしているため,時間をモニターし,フローの止まり具合を分析すれば阻害要因を見つけ出すことができる.一般的にフローが止まることが多い場所は,何らかの問題が顕在化している場所であり,フローが止まる原因を追及することによってフローを阻害する根本原因をつきとめることができる.
そしてこの根本原因を除去することによって,システム全体のフローは大きく改善される.
さらにこのプロセスを繰り返すことによってフローを継続的に改善することができる.
7, まとめに代えて
以上,TOCの基本とする原理と導入プロセスを追いながらドラッカー教授の著作との関連を見てきた.
こうしてまとめてみながら,自分自身がまだまだTOCに関してもドラッカーマネジメントに関しても理解を深める必要があることを実感している.
残念ながら,私の経験と理解度の足りなさゆえに,本稿は決定版とはなり得なかった.
継続的に研究と実践を重ね,よりわかりやすいものを書けるように努力したい.
稚拙な文を最後までお読みいただいたことに心より感謝いたします.
脚注
1,注釈 イスラエルの物理学者エリヤフ・M・ゴールドラット博士が開発したシステム改善手法
2,引用 P.F.ドラッカー/上田惇生訳『ドラッカー名著集2 現代の経営(上)』,ダイヤモンド社,2006年,P.130
3,引用 同上 P.131
4,引用 P.F.ドラッカー/上田惇生訳『ドラッカー名著集11 企業とは何か』,ダイヤモンド社,2008年,P.31
5,参考文献 大野耐一『トヨタ生産方式』,ダイヤモンド社,1978年
6,参考文献 ヘンリー・フォード/竹村健一訳『藁のハンドル』,中公新書,2002年
7,引用 エリヤフ・M・ゴールドラット/三本木亮訳『巨人の肩の上に立って「生産概念」と「生産手法」の比較』週刊ダイヤモンド2008/12/06号,ダイヤモンド社,P.119
8,引用 同上
9,注釈 TOCでは制約を「システムの目標達成レベルを決定づける要素」と定義し,営利企業における制約の候補は,「市場」,「時間(リードタイム)」,「キャパシティ」の3つとした.システムの環境に応じて,「市場」と「時間」または「市場」と「キャパシティ」の組み合わせとなる.
10,参考文献 P.F.ドラッカー/上田惇生訳『経営者に贈る5つの質問』,ダイヤモンド社,2009年,P.25
11,参考文献 同上 P.41
12,参考文献 同上 P.11
13,注釈 P.F.ドラッカー/上田惇生編訳『はじめて読むドラッカー【技術編】テクノロジストの条件』,ダイヤモンド社,2005年,P.125では「原材料を経済的満足に変えるためのプロセスとして製造をとらえる」ものがシステムズアプローチであると記述されている.
14,引用 P.F.ドラッカー/上田惇生訳『ドラッカー名著集11 企業とは何か』,ダイヤモンド社,2008年,P.271
15,引用 同上,P.272
16,参考文献 エリヤフ・ゴールドラット/三本木亮訳『ザ・ゴール』,ダイヤモンド社,2001年
17,参考文献 エリヤフ・ゴールドラット/三本木亮訳『クリティカルチェーン』,ダイヤモンド社,2003年
18,引用 P.F.ドラッカー/上田惇生訳『ドラッカー名著集2 現代の経営(上)』,ダイヤモンド社,2006年,P.2
19,引用 Oded Cohen『EVER IMPROVE a guide to managing production the TOC way』,2008,P.8,筆者訳
著者プロフィール
現職;桂技術士事務所代表、TOCトレーナー/コンサルタント
最終学歴;東北大学工学部卒業
職歴;中堅ゼネコン退職後、建設技術のコンサルティングを開始。TOCのトレーニングを受け、建設業へのTOC導入を開始。現在は、建設業を始め、製造業やサービス業へも展開
主要業績;地場中小建設業の業務改善
関心領域;人と仕事のマネジメント、時間という制約の活用
そのほか;ドラッカー仙台支部にて仙台読書会を主宰
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